【三 番 瀬】
果たしてここに広がっているものは「海」なのだろうか。はるか昔から、我々が普遍的な概念だと信じていた、「海」と同じものか。
遠浅の東京湾東側は、埋め立てるのに条件が良く、加速度がついて自然を破壊しつくしてきた。三番瀬は東京湾内奥部に残された、唯一の干潟・浅瀬だという。干潟が海水の浄化にどれほど貴重なシステムか、ということは今でこそ声高に言われているが、30年前には、誰がそんな事を言ってくれただろうか。
我々が20世紀後半で失ったものは、それ以前の4000年間で失ったものの何倍になるのだろうか。
人間はほんの罪滅ぼしのつもりか、人工海浜を作った。が、しょせん人工だ。15年経ったら、砂は逃げるし浜は陸地化が進んでいく。地貝の分布もどんどん変わった。観光潮干狩り客用には、九州から運んだアサリを毎日撒くそうだ。
幸い、有明と違って、ここの海苔はまだ収穫できている。渡り鳥も大量に来る。だが、この人工海浜や堤防に何度来ても、本当の自然と接したときに受ける「やすらぎ」の気持ちは得られない。すべてが虚構に見えてしまうのだ。
これらのモノクロームも虚構だろう。美しく撮れすぎた。
(2001年3月)