Essay


【-ベランダのトマト-】

 

昨年は初めてベランダのプランターでトマトを育てた。広いベランダを増築したために、下の庭の陽当たりが悪くなったためだ。直植えと違って水やりをこまめにやらないと駄目だった。ナスは水が少なかったせいで堅くなってしまったし、このトマトも、実は随分小さい実なのだ。そしてこの時はまだ青かった。
 この日、昼前に雨が上がった。ふとベランダに面した、窓から見ると、まだ青いトマトに水滴が付いていた。水滴は薄日に光っていた。無性に撮りたくなって645判のプラスティックカメラ改造のピンホールカメラを持ち出した。そこで、はたと困った。トマトと壁の間が狭いから、体が入らない。三脚も立てられない。
 だが、撮影のためにプランターを移動することはできない。水滴も散ってしまうだろうし、プランターを移動させて最適アングルを決めたとしても、それは「やらせ」写真であって、今、自分が見た光景と感動は絶対に再現できないからだ。
 一計を案じた。壁に一脚を立てかけて、勘でカメラをセットした。2カット撮ってみたが、かなりうまく撮れた。本物よりみずみずしく撮れたかもしれない。
 これからしばらくしてこのトマトは妻と食べた。小さかったが、トマト本来の香りがあり美味かった。そして、今年も妻はベランダに数本のトマトを育てる予定だ。 (2001年春)

 

     撮影 2000年6月  自宅     

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