Essay

 
  【私の撮影ジンクス】

 昨年掲載した「写真の上達の近道」には、沢山のメールをいただきました。わざわざ、ご自身のホームページでご紹介いただいた方もいらっしゃいます。今回は、その体験版と言えましょうか、自分が撮影に行くときに、または撮影後に、自分の写真を評価するときなど、普段、感じている事を「ジンクス」という、いくつかの項目にまとめてみました。私は自分は写真が下手だと思っています。器用でもないし、テクニックもたいしたことはありません。山のような失敗もあります。それにウィークデーは生活のために別の仕事をしていますから、撮影に割ける時間も限られています。しかしマイペースで続ける私の考え方が、何か、みなさんの参考になれば幸いです。

1.最初の一枚がベスト
 フィルムの先頭のカットという意味ではありません。現像してみて、予想以上に気に入ったカットがあった場合、その後、その場所に何度行っても、最初に撮ったカットを超える作品はできないというジンクスです。  対象は静物が多いので、2度目でもそれほど対象は変化していません。天候や光が第1回目より良く、機材もより良いものを持っていっても駄目です。撮るときは分りませんが、現像、プリントして第1回目のプリントと比較すると歴然とします。やはり対象を初めて発見した、新鮮な感動が最初のカットにはあるからでしょう。

2.撮れる日と撮れない日がはっきり分かれる
 乗る日、乗らない日と言った方が分り易いでしょうか。撮れない日は何本撮っても使えるカットがありません。逆に、撮れる日、乗っている日は、1本のフィルムから何カットも後々まで残る作品ができます。中判のロールフィルムを使うので、6x9なら1本で8カットのみです。それを2本撮ってきて、そこから3カットも4カットも残る場合があります。こんな日は、神様が降りてきた、などとひそかに思っています。行った場所や撮影対象の問題ではありません。自分の心の内部の問題です。  同じ事ですが、歩いていて対象が見える日と見えない日がはっきり分かれます。見える日=撮れる日とは限りませんが、見えない日は確実に撮れない日です。こんなときは無理せず一枚も撮らずに帰ってきます。

3.自己評価には熟成期間が必要
 自分の場合だけかもしれませんが、撮った直後にはそのカットを正しく評価できません。だいぶ日数が経ってから見ると、直後は良いと思ったカットが、全然つまらなく見えたり、逆に、後からネガをチェックすると、直後は見落としていたカットが使える、と再発見したりします。  本当に後まで残るカットは、直後にも良いと思うし、その評価がいくら時間が経っても変りませんが、大部分のカットは、後から再評価すると随分評価が変ります。  撮った直後は、撮影時点の自分の思い入れが記憶に強く残り、その為に、冷静な評価ができないのだろうと解釈しています。

4.遠くへ行くほど撮れない
 このジンクスは少し悲しいものがあります。なぜなら、大抵の写真愛好家は、旅に出て写真を撮る、山へでかけて写真を撮るという、でかける楽しみと撮影する楽しみがセットになっていますよね。しかしながら、自分の場合は、自宅に近い場所の方が、後々まで残る写真が撮れて、遠くへ行くほど密度が薄くなるのです。  家内とサイクリングで船橋から延々、印西市を経由して木下(きおろし)まで行き利根川を見て帰るということを3度ほどやったことがありますが、離れる距離と撮影する回数や良いカット数は、完全に反比例していました。  旅行先の撮影もそうです。ある程度は使えるカットが撮れることもありますが、大多数は平凡な写真になります。自分のテーマと離れることもあるでしょうが、旅先では、まずは初めて見る風景に感動して酔ってしまい、その分、上っ面を滑っているような写真になっているのではないかと考えています。  いつも歩き回っていて、見慣れている場所の中で、何か対象を発見して、ある感動を覚えて撮る写真の方が、自分にとっては、パワーがあり、深みのある作品になっているようです。  とはいえ、ホームページには旅先の写真もだいぶ載せています。これはこれで単純に旅に感動した記録として、見てください。他にも、ホームページに載せている写真は玉石混交ですが、削除して減らすより、いろいろ沢山見せようという気持ちで残しています。そのうち、選抜して40カットほどをセレクトコーナーとして、お急ぎの方用にページを作ろうと思っています。

5.グループで行くと撮れない
 写真仲間と一緒に日帰りや泊まりで撮影にでかけることがありますが、まず、滅多に良い写真が、こういうときは撮れません。昨年(2002年)に行った、草津での光のカットが唯一の例外位です。  大体は、一人で撮影に行ったとき、または家内と一緒の時の写真ばかりが残ります。仲間と行くときは、作品を撮ろうというより、交流自体が楽しいので、そちらをメインに考えています。遠くへ行くほど撮れないということと相乗効果もあるでしょう。  余談ですが、他の仲間は普通のカメラなので、35や中判のボディーと沢山のレンズも持ち、それは凄い機材重量です。こちらは、ただの箱のピンホールカメラなので軽いし、三脚も軽いもので十分ですし、だいぶ他の人よりは楽です。

6.ゆっくり移動しないと撮れない
 これは自分に限った事ではないかと思います。車に同乗したときに運転している人に、いい所あったら停まるからと親切に言われることがあります。(私は現在、車を持たないペーパードライバーです)親切にそう言われても実は困惑するだけです。一瞬で過ぎ去る風景、それも自動車道から見える風景で瞬間に判断することは私には不可能です。  ゆっくり歩くことが、対象を見つけるベストの方法。次善の方法は自転車です(ただしゆっくりと)。だから、たぶん旅先でなかなかいいものが撮れないということは、いつも短い日数で移動が多いからでしょう。一箇所に何日も滞在して、ゆっくり歩き回れば、いろいろ見えてくると思います。家内の実家は茨城の田園地帯ですが、始めは全く撮れませんでした。何度も行くうちに、だんだんと撮れるようになってきました。

7.他の人が勧めるポイントでは撮れない
 いわゆる観光スポットはもちろん論外ですが、プロ・アマ問わず写真家の方から、推薦されるポイントに行っても、自分が満足できる写真は撮れません。あそこに行けば写真が撮れるはずだと、決めてかかって、撮影に行く方も多いとは思いますが、私にはできません。私の基本は、自分の目で見て、自分で発見して、自分の感動を撮るということです。遠い素敵な風景の場所へ行っても、なぜか、どこにでもある草を撮ったものが一番良かった、などという経験もあります。被写体の優劣ではありません。


☆とりあえず、七項目を掲載しました。また気づいたことがあれば追加したり、内容を修正したりします。

(作成:2003年4月)

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